はじめに
使用権資産は他の基準で評価に関する規定がないことから、一般的な費用性資産と同様に減損対象資産となります。先日公表された固定資産の減損会計に係る会計基準の適用指針(案)144-2項及び144-3項では、以下のように述べられています。
144-2
リース会計基準等の公表を受けて、使用権資産への減損会計基準の適用に関する具体的な取扱いを定めてはどうかとの意見が聞かれた。具体的には、国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」の適用時において、使用権資産への減損会計の適用に混乱が見受けられた
~以下略~144-3
固定資産の減損会計に係る会計基準の適用指針(案)144-2項及び144-3項
前項の論点は、使用権資産とリース負債を合わせて減損会計の単位と捉えることで、使用権資産の減損処理が不要であるとする誤解があったというもの
~以下略~
減損検討プロセスのおさらい
日本基準及びIFRSいずれもプロセスに違いはありません。使用権資産の使用価値又は公正価値のいずれかがその簿価を上回っていれば減損不要です。
なお、日本基準では正味売却価額、IFRSでは処分コスト控除後の公正価値と表現されますが、いずれも類似の概念のため、ここでは省略、一括して「公正価値」と表記しています。
使用権資産の減損の兆候
もし複数のフロアを単一のリース契約のもと賃借しており、これらのフロアをまとめて単一の使用権資産として識別している状況で一部のフロアのみ転貸/空床とする意思決定を期末日時点でした場合、当該一部のフロアを単独のCGU(Cash Generating Unit:資金生成単位)として減損テストするかどうかを決定する必要があります。
サブリース期間の使用価値/公正価値
使用権資産単独の使用価値/公正価値を考える際の要素を下記の通り分解しました。ここでは以下の赤枠部分について考えます。
サブリース期間については、使用価値/公正価値いずれの概念であっても現在の使用方法を前提とする限り同じ価値になります。
しかし、公正価値評価において重要なことは、現在の用途(本社オフィスとして利用)にかかわらずマーケットの参加者目線で最も価値が高くなる利用方法(要は不動産投資として最も儲かる利用方法)を前提として考えるということです。(IAS 第36号20項) したがって、オフィスの場合ほとんどは現在の使用方法をベースに価値を計算していくことになりますが、もし、商業利用の方が価値が高いと合理的に判断される状況であれば、そのような前提のもとサブリースの収益に基づく価値を検討する必要があります。そのような場合には、使用価値と公正価値が異なることがあります。
また、マーケット参加者が想定する事項には少なくとも以下の事項が含まれます。
- 物件の状態、立地
- 残存リース期間
- 物件の使用やサブリースにかかる契約条件
なお、オフィスのリース契約でサブリースを禁止する条項があることも想定されますが、それだけで使用権資産の価値が必ずしもゼロとみなされるわけではありません。なぜなら、公正価値の測定は合理的な仮定に基づくプロセスであり、サブリースではなく、新しいテナントが現在の契約を引き継ぐ可能性も想定しうるからです。
オフィスにかかる使用権資産単独の”自己使用期間”の使用価値
次に下記の赤枠部分について検討します。
ケース1:ほぼゼロとみなすケース
このケースの場合、使用価値≒公正価値となり、公正価値が使用権資産の簿価を下回っている限り減損となります。
通常以下の図のように、自己使用期間はサブリース期間と比較して相対的に短いため、サブリース期間の価値が使用権資産の価値のほとんどを占めることととなり、自己使用期間の価値が単独で仮に計算できたとしても、結果的に使用価値≒公正価値となると推定されます。(IAS 第36号23項)
ケース2: ゼロではなく価値全体に対して重要性があると考えるケース
しかし、たとえば以下の例のように、公正価値≒使用価値と見做せない場合、すなわち残存リース期間に占める自社使用の期間が長い場合があります。そのような場合、理論的には自己使用期間の使用価値を算出したうえでサブリース期間の価値と合算すれば良いのですが、通常オフィスは独立したキャッシュインフローを生まない(=単独での使用価値は計算不能)ことから、サブリース期間の価値(公正価値)のみで簿価を回収できない場合、オフィスが含まれるCGUレベルで減損テストを実施する(IAS 第36号22項、67項)こととなります。
前提:
- 現在、2023年12月
- 2026年12月まで3フロアのリース契約を締結している(残存リース期間は36か月)
- そのうち1フロアについて2024年10月より転貸することを意思決定
- 自社利用期間は9か月(2024/1~2024/9)であり、2023年12月における残存リース期間36か月に占める割合は小さくないものと判断
- 賃貸市場の家賃は当社が現在のフロアをリースしてから上昇しておらず、2024年10月以降のサブリース料を前提とした公正価値は使用権資産の簿価を下回っている。
- 以上の前提から使用権資産は含まれるCGUレベルで減損テストを実施する。
空床となる場合の考え方
リース契約上の制限や残存リース期間が短くサブリースが現実的ではないと判断された場合、残存リース期間について空床とする意思決定が行われる場合があります。
この時でも上記のサブリースと基本的な考え方は同じです。ただし、上記のサブリース期間に相当するのが空床期間であり、当該期間の価値がゼロとなります。
したがって、公正価値であればゼロ評価であるため使用権資産の簿価をゼロまで減損することとなります。一方で、ケース2のように自己使用期間が長いということで使用価値≠公正価値のケースであれば、CGUレベルで減損テストを実施することとなります。
以上
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